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株式会社敷島ファーム
栃木県那須郡那須町高久丙1796

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先進技術とこれからの畜産Ⅳ 〜ゲノミック評価による牛群改良の成果(中間報告②)と新たな形質〜

ゲノミック評価

先進技術とこれからの畜産Ⅲで解説のように「牛群改良」とは、牧場で飼育している母牛を世代交代させることにより、母牛群の能力を底上げ(改良)していくことをいいます。

今回はゲノミック評価を一早く取り入れ、2017年よりゲノミック評価による牛群改良を行ってきた成果の中間報告②になります。(中間報告①は先進技術とこれからの畜産 Ⅱをご覧ください)


資料a~cは敷島ファームの雌牛達に関するゲノミック評価をとりまとめた資料になります。

2022年生まれ(資料a)は2021年生まれ(資料b)に比べ、枝肉6形質の全てにおいてHやA評価の個体割合が上昇していることが示されています。

資料a


資料b

資料提供/(一社)家畜改良事業団 敷島ファーム評価結果(2022/2021)

ちなみに、枝肉重量やバラ厚、BMS(サシ)などの改良が進んでいる反面、皮下脂肪厚はあまり進んでいないように見えます。

皮下脂肪厚は”薄いほう”が歩留(ぶどまり/肉になる部分)が良くなるので、薄くなるように改良していく必要がありますが、枝肉重量やBMSなどの改良を進めると皮下脂肪は厚くなる傾向にあります。

枝肉重量やバラ厚を良くする(体重増)・サシを入れる(筋間脂肪増)という増型の改良と、皮下脂肪を薄くする減型の改良は方向性が逆になりますので、あまり相性が良くないと言えます。つまり、皮下脂肪厚の改良は、それ以外の形質が改悪されてしまうリスクにつながりかねません。

なお、歩留はロース芯面積・バラ厚など枝肉重量・BMSと同じ増型の改良や、飼育技術で補うことができます。もちろん皮下脂肪厚自体も同様です。ゲノミック評価で優劣のポイントをしっかりと把握していれば、給餌飼料や飼育技術で十分対応が可能となります。

そのため、リスクのある皮下脂肪厚の改良を優先ではなく、枝肉重量やBMSなど増型の改良を優先して進め、皮下脂肪厚は改悪しない程度にほどほどに、あとは給餌飼料や飼育技術で補うというリスクを抑えた改良へとつながっていきます。このような改良の姿勢・方針が、皮下脂肪厚の緩やかな改良にあらわれていると考えています。

ゲノミック評価は牛群改良だけではなく、個体の特性をもとに、個々に最適な飼育方法の構築や、飼育方針の決定などにも活用が期待される技術になります。牧場規模や繁殖肥育問わず、加速度的に普及が進むと考えています。

2017年に家畜改良事業団(LIAJ)との共同研究を通して、ゲノミック評価による牛群改良を開始した際に、敷島ファームで飼育中の母牛4500頭すべてのゲノミック評価をしました(資料c)。

当時は全国平均(BとCの間)よりも劣る評価の牛が多く、HやAなど優れた評価はとても少ない状況でした。特に黒毛和牛の評価で重要なBMSは、全国平均以上の能力を持つ牛が飼育母牛群の25%に留まるという状態でした。

2022年生まれ・2021年生まれと比較すると、ゲノミック評価による牛群改良により、着実に改良が進んでいることがわかります。

資料c

資料提供/(一社)家畜改良事業団 敷島ファーム評価結果(2018)


改良の進捗は、下記の生年別の評価値の推移(資料d)でもその改良成果がわかります。こちらは0値がGEBV(ゲノミック育種価)の全国平均で、平均との差により優劣がわかります。

2021年に生まれた子牛の評価値が全ての形質で全国平均以上となり、2022年生まれはさらに向上しています。これらの成果は、繁殖雌牛で残した個体の欠点を補うような交配を計画的におこなった結果だと考えています。

資料d

資料提供/(一社)家畜改良事業団 敷島ファーム生年別評価の推移(2013-2022)

また、鹿児島全共などでも枝肉の評価に組み入れられた、MUFAやオレイン酸などの「脂肪の質」のついても、2021年に引き続き2022年生まれでも向上&高い水準を維持しています。

先ほどの皮下脂肪厚の改良状況はこちらの資料でも進捗が少しずつということがわかります。この大きな改良の差は、優先して改良を進めている形質と、優先度が低い形質の差と言えます。

ゲノミック評価による牛群改良はHやA評価の雌牛を繁殖雌牛として選抜して世代交代させていきます。改良度合に差はありますが、着実に成果をあげています。

ゲノミック評価による牛群改良を開始した当初は、すべての形質が全国平均以下という愕然とする状況でしたが、現在では優秀な牛群が揃う牧場となってきました。

2023年に出産がはじまる母牛は、資料bで紹介の2021年生まれから選抜された優秀な牛たちになります。2023年生まれの子牛たちも期待大となっています。


新たな形質

枝肉6形質やオレイン酸・MUFAなど「お肉に関しての改良」で順調に成果をあげているゲノミック評価による牛群改良ですが、今後は新たな形質についても改良を進めています。

LIAJがゲノミック評価による発育関連形質(生時体重・在胎期間・日齢枝肉重量)の3形質について公表しました。

発育関連の解説リーフレットはLIAJのHPで御覧になれます。

http://liaj.lin.gr.jp/index.php/detail/data/m/7518158913

新たな3形質(生時体重・在胎期間・日齢枝肉重量)について、生年別で評価した資料が下記になります(資料e)。

資料e

資料提供/(一社)家畜改良事業団 敷島ファーム発育関連形質の評価結果(2013-2022)

過去の雌牛を振り返ると、生年別で生時体重の大きい、小さい、さらに在胎期間の長い、短い繁殖雌牛達がバラバラの感じです。日齢枝重量は年々上昇傾向にあることが表れています。

敷島ファームでは様々なSDGsに関する取り組みをおこなっていますが、この新たな3形質はこのSDGsにとっても重要な要素となります。

① 生時体重

生時体重の把握は分娩時事故(主に大きすぎる子牛による難産)回避に大きく関わってきます。

全国的に肉用牛の枝肉重量は改良の効果により向上しており、敷島ファームにおいても、繁殖雌牛の枝肉重量のゲノミック育種価の平均は年々上昇傾向(資料a~dの枝肉重量)にあります。
ですが、大きくなる改良を重視した結果、子牛の生時体重まで大きくなり過ぎると難産が増え、母子ともに危険性が高まります。

今までは、大きくなる牛は大きく生まれる可能性が高いので、初産や小さい牛に交配は避けるなどの対処をしてきましたが、基本は実際に生まれた子牛の大小を見て判断となります。最低でも1産はすることになりますので、場合によっては難産が多発するリスクもあります。

牛は豚や鶏などに比べ、在胎期間が9.5カ月と長いことから、1年1産を確実に、子牛の死亡を予防することが重要です。難産などが原因で子牛が死亡した場合、在胎期間中の母牛飼育経費損失だけではなく、ゲップや糞尿から排出された温室効果ガス(GHG)や、飼料の生産・輸送で生じたGHGなどが全て意味の無いものとなります。

ゲノミック評価に生時体重が加わったことにより、母牛の体格にあわせたサイズの子牛が生まれるような交配が可能となりました。難産による分娩時事故の回避につながります。また、難産を回避することは出産時の母子への負担軽減にもつながりますので、アニマルウェルフェアの観点からも有効といえます。まごころを持って牛と接することを社訓とする当社にとって、牛たちの負担軽減はとても重要なポイントとなります。

② 在胎期間

在胎期間の把握は分娩間隔と分娩時事故の回避に影響します。

在胎期間が短くなることにより分娩間隔も短くなります。同じ期間で多くの子牛を産むことができるようになりますので、子牛の生産コスト削減につながります。また、在胎期間を把握することは分娩時事故の予防にもつながります。

在胎期間が1日延びることにより約0.32kg(LIAJ種雄牛の発育関連形質ゲノミック評価資料より抜粋。R5.1.24現在の推定値)生時体重が大きくなります。生時体重と在胎期間の評価を活用することにより、今までよりも正確に予定日や生時体重を予測することができます。

難産の危険性がある場合は集中的な管理や、分娩介助の準備を進めるだけではなく、分娩誘発処置の判断などにも役立ちます。また、在胎期間が短いはずの牛がなかなか生まれない場合などの早期異常発見にも期待されています。

なお、在胎期間の短縮は子牛生産に関するGHG削減にもつながります。地球環境への配慮やSDGsの観点からも有効な形質といえます。

③ 日齢枝肉重量

日齢枝肉重量は従来の枝肉重量とともに、敷島ファームが推進する早期出荷にとって重要な要素といえます。ゼロカーボンビーフへの道 Ⅰ 〜早期出荷によるCO2排出量削減〜参照

今までは「枝肉重量=大きくなる能力」を伸ばす牛群改良により、早期出荷が出来る牛群へと改良を進めてきましたが、日齢枝肉重量の評価を活用することにより、今までよりも効率的且つ直接的に改良を進めることが可能となります。

日齢枝肉重量は一日あたりの増体重㎏を示します。例えば、平均的な27か月齢(821.25日)出荷、枝肉重量510kgを基準とした場合、510kg÷821.25日=0.621kg/日、つまり1日平均0.621gk増体することになります。なお、1日あたりの増体重のことをDG(Daily Gain)と言います。

ゲノミック評価導入前の2016年生まれは、全国平均値比プラス0.001より、0.621+0.001=0.622gk/日、510kg÷0.622kg/日=819.9日となります。

2022年生まれは、全国比プラス0.028より、0.621+0.028=0.649kg/日、510kg÷0.649kg/日=785.8日となります。

上記より、2016年生まれの牛が510kgになるために819.9日(26.9か月)必要な状態に対し、2022年生まれは785.8日(25.8か月)で510kgに達することになります。つまり、34.1日早く510kgに達するということは、それだけ早く出荷ができるようになったと言い換えることができます。

ちなみに、今から10年前の2013年生まれは、全国比マイナス0.018となりますので、510kgになるには845.8日(27.8か月)、2023年生まれと比べると59.9日も余分に必要となります。

敷島ファームではもともと生後28~30か月齢で出荷していましたが、2021年に27か月齢での安定出荷を達成し、2023年には26か月齢での安定出荷を見込んでいます。ゲノミック評価による値は、敷島ファームで実際に出荷されている月齢とも合致しています。

上記の改良は枝肉重量のゲノミック評価を活用して進めてきた成果になります。着実に早期出荷が出来る牛へと改良が進んでいます。今回新たに加わった日齢枝肉重量の評価により、今まで以上に効率的な改良が期待されます。


昔から「小さく生まれて大きく育つ牛が理想」と言われてきました。生時体重・日齢枝肉重量・枝肉重量の3つの評価値を活用し牛群改良を進めることにより、ほどほどの大きさで生まれ(生時体重)、良く育ち(日齢枝肉重量)、大きくなる(枝肉重量)という理想的な遺伝的能力=基礎能力を持つ子牛を高い確率で産ませることができるようになります。

日々精度が向上し牛群改良においても大きな成果をあげているゲノミック評価は、新しい3形質の実用化のようにまだまだ発展していきます。

敷島ファームではこれからも共同研究等を通して、飼育牛に関するあらゆるデータや最新情報をLIAJに提供していきます。これらの情報はLIAJのゲノム研究に活用いただくことにより、ゲノミック評価の精度向上や、新たな形質の実用化に活かされていきます。

敷島ファームでは、発育に関する新たな3形質(在胎期間・生時体重・日齢枝肉重量)の利活用はもとより、ゲノミック評価など様々な研究への協力を通して、牛・人・環境にやさしい牛づくりを推進していきます。


※全国平均比について
評価検体数や全体的な改良により全国平均値は常に変動します。傾向としては近年になるほど改良が進んでいますので、2013年の全国平均と2022年の全国平均では全国的に改良が進んでいる2022年のほうが高い水準となります。上記文中ではわかりやすくお伝えするために、全国平均値の変動についての説明は省略しています。全国平均値と当社値の比較についてはLIAJにより最新の情報で分析された結果となります。過去よりも現在のほうが全国平均値も向上していますので、敷島ファームの改良は資料で確認できる以上に改良が進んでいると言えます。