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株式会社敷島ファーム
栃木県那須郡那須町高久丙1796

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先進技術とこれからの畜産Ⅲ ~ゲノミック評価による牛群改良とは?~

ゲノミック評価

ゲノミック評価?牛群改良?ゲノム?遺伝子組み換え?そもそも何?など、ゲノミック評価による牛群改良について内外から聞かれます。

そこで、今回はゲノミック評価による牛群改良をできるだけわかりやすく紹介いたします。

牛群改良

牛群改良」とは、牧場で飼育している母牛を世代交代させることにより、母牛群の能力を底上げ(改良)していくことをいいます。

敷島ファームのように生育一貫体制の牧場では、生まれた子牛の中から能力が期待できるメス子牛を選抜して育て上げ、世代交代することにより改良していきます。

効果的に改良を進めるためには、母牛よりも能力高いメス子牛を産んでもらう必要があります。母牛の良い能力はより良く、劣る能力は補うような交配が必要となります。

生まれる子牛の基礎的な能力は、父牛と母牛の能力に大きく左右されますので、両方の能力をしっかりと見極め、最良となる交配をしていきます。

従来型の牛群改良

従来の牛群改良は「良い牛を”産んだことがある”母牛」と「良い牛を”産ませたことがある”父牛」を交配したら「もっと良い牛を”産みそうな”子牛」が生まれるのでは?というように、血縁牛の出荷成績や血統などから予測して交配を決め、生まれた「もっと良い牛を”産みそうな”子牛」の中から、体型などを見て選抜し、次世代母牛として世代交代することにより改良していきました。

ヒトの場合、大きな父母から小さな子どもが生まれたり、兄弟姉妹でまったく体格が異なることは特別なことではありません。もちろん牛も同じなのですが、”産んだことがある””産ませたことがある”という情報からはそこまでの予想はできません。

つまり、大きな父母からもっと大きな子どもが生まれ、兄弟姉妹は皆同じ体格になるだろうという少々強引な予想のもと、交配を決定していることになります。

もちろん生まれた子牛についても「もっと良い牛を”産みそうな”子牛」になりますので、世代交代した数年後に「あれ?母牛のほうが良かったかも・・・」ということも珍しくありません。

従来はこのように試行錯誤しながら、少しずつ牛群改良を進めるしか方法がありませんでした。

以上のような従来型の牛群改良を「育種価による牛群改良」といいます。

※育種価をネットで検索すると「遺伝的能力」とか「親から伝わる能力値」などのように記載されていますが、個々の遺伝子情報を解析しているのではなく、関係する血統の肥育成績などから予測した情報になります。

ゲノミック評価による牛群改良

「育種価による牛群改良」と「ゲノミック評価による牛群改良」の大きな違いは「個性」を考慮できるかできないかにあります。

「個性」は個々の持つ性質・特徴ですが、「生まれた時からもっている基礎的なもの」と「成長とともに形成されるもの」に大別できます。

そして「生まれた時からもっている基礎的なもの=遺伝的能力」がゲノミック評価による牛群改良では重要となります。

ゲノミック評価は、従来の育種価に「個体が持つ遺伝的能力」を加えて評価する新しい評価方法になります。長年の研究により解明された「遺伝子の特定の部分に現れる特徴」を、蓄積された遺伝情報(ゲノム)群と、対象個体のゲノムを比較することにより、「個体が持つ遺伝的能力」の傾向を特定して評価していきます。

このゲノミック評価を利用して、交配検討や次世代の母牛にするかどうかの判断を行うことにより、牛群改良を進める方法を「ゲノミック評価による牛群改良」といいます。


家畜改良事業団(LIAJ)では供給する精液(父牛)のゲノミック評価をおこなっています。つまり、母牛のゲノミック評価を行った上で、LIAJが供給する精液を利用することにより、精度の高い牛群改良をスピーディーに進めることができます。

そこで敷島ファームでは、当時飼育していた約4500頭の母牛全頭について、ゲノミック評価を行うことを決定しました。

黒毛和牛の牧場で、ここまで大規模なゲノミック評価による牛群改良は前例がありませんでしたが、ゲノミック評価の正確度向上や普及にも有効な取り組みとして、LIAJと敷島ファームによる「ゲノミック評価による牛群改良」がスタートしました。

2017年10月より開始された母牛群のゲノミック評価ですが、とても改良しがいのある牛群であることが判明する結果となりました。詳しくは下記記事をご覧ください。

母牛群全頭のゲノム解析完了後は、個々の評価能力を見ながら、LIAJのゲノミック評価済み精液から最適なものを選択し交配する「ゲノミック評価による牛群改良」を急ピッチで進めました。

そして生まれたメス子牛は全てゲノミック評価を行い、今いる母牛群より優れている牛だけを次世代の母牛にするようにしました。

その結果、2021年には生まれた子牛の半分以上が全国平均以上になるという大きな成果をあげることができました。

この生まれた子牛の中から、特に優秀なメス子牛を選抜して母牛群を更新していますので、更に加速度的に改良されていくことが期待されています。


従来の育種価による方法では、”良い牛を産んだことがある母牛””産ませたことがある父牛”から生まれた”良い牛を産みそうな牛”を次世代の母牛として世代交代をしていきます。

この”良い牛を”産みそうな牛”が本当に”良い牛を産む牛”かどうかがわかるまでには最低でも4~5年(子牛→母牛13~15か月 + 授精→分娩9.5か月 + 子牛が出荷25~30か月=約50か月)はかかります。正確に判断するには2~3頭の出荷情報が必要なので6年以上は必要となります。

一般的に推定育種価が判明するまでに5~6年と言われていますので、いずれにしても育種価による牛群改良は、答え合わせにかなり時間が必要となります。

その点、ゲノミック評価は個体ごとの「遺伝的能力」を生まれたらすぐにでも確認することができます。つまり、遺伝的に優れている母牛を、遺伝的に劣っている次世代牛で更新してしまうというリスクを回避することができます。

もちろん牛は工業製品ではありませんので絶対はありません。ですが、育種価だけよりは育種価+遺伝的能力で判断のほうが、運任せよりは遺伝的能力の優劣を確認したうえで世代交代したほうが、より効率的に牛群改良ができるのではないでしょうか?


敷島ファームでは今までに約13,000頭のゲノム解析をおこなってきました。ゲノミック評価は解析されたゲノム情報が多いほど正確度が向上していきます。そして、解析されたゲノム情報は新たな遺伝的能力の解明にもつながるかもしれません。

敷島ファームは「ゲノミック評価による牛群改良」のパイオニアとして、畜産の未来を見据え、これからも「ゲノミック評価による牛群改良」を推進していきます。

※本文中の「育種価による牛群改良」「ゲノミック評価による牛群改良」は専門的な部分を大きく割愛し簡略化して記載しています。